ムバルンに出た!熱血のガムラン対抗試合

mebarung one

ムバルンというのは、二つのガムラン楽団が一つの舞台上で交互に演奏を行って、優劣を決めるいわゆる「対決戦」のこと。大規模なものではバリ芸術祭PKBの各県対抗戦がある。といっても、サポーターの熱すぎる応援で騒動が起きるようになり、現在は「ムバルン」という単語を使わず、勝ち負け判定もしない「ゴン・クビャール・フェスティバル」とか「パラド」にPKB主催者は使い分けているが・・・バリ人の心の中では「ムバルン」は「ムバルン」である。

数年前、オダランに呼ばれて行ったら「あ、今夜はムバルンだから、頑張ろうね!」と、会場に着いてそうそう言われた事がある。何でそんな大事なのを事前に教えてくれない!と思ったものの、この時は大人の楽団と子供の楽団の対戦だったので、最初から勝ち負けが見えてて「ま、外国人でも大丈夫さ、踊り子足りないよりは」ってノリなのだと勝手に判断していた。

しかし、同じ衣装を着たバリ人の対決相手と裏で順番を待つってのは、それはそれは緊張するものだ。さらに、この時は演目がオレッグだったから、相手のお姉さんから「何で私みたいな美人がこんなタム(外国人)と対戦なの?色が白いからってイイ気にならないでよ!」って睨まれてるんじゃ?とか、ついつい被害妄想気味に陥るビビリ屋ちび太。怖くて長い長い待ち時間が終わり、出番が来た時は「神様ありがとう!」って、感謝したものだ。

ムバルンmebarung
ムバルンの日は観る側も熱気がスゴイ。

ところで今回は、ちょっとばかり嬉しいムバルン体験を書きたい。

「ウィラナタ踊れたよね?日本人の踊り手を探している楽団がいます。来月xx日で場所はyy寺院。」と携帯にSMS。

1ヶ月以上先の話だが、もちろん「OK」と打って返信。

「じゃ、明日の5時に練習に来てください。また明日~」

はい? 私、読み間違えた?

来月でなくて、今月のxx日? そりゃ、来週だからすぐ自主練しなきゃ!

よし!覚えてる!完璧!と、翌日、張り切って楽団との練習に向かったところ、楽団の人達に自己紹介などをして話してたら、やっぱり来月。一ヶ月以上前から練習しているのはムバルンだから。と、おっしゃる・・・ムバルンかぁ・・・オレッグの嫌~な思い出が頭に浮かぶ。

「あの~、相手の演目もウィラナタですか?」

「わからない。各楽団が2曲の楽曲と、2つの舞踊を競う。選択は自由なので、相手と演目がバッティングしないようにウィラナタにした。この曲を叩ける楽団はあまり居ないから」と、自信満々だ。

う~む・・・あまり深く考えるのは面倒なんで、それ以上質問せずに、「踊る!」という事だけ考えて、一生懸命に楽団の音を聴きながら、踊りを音に合わせて練習を始めた

バリ舞踊図鑑padmanila

最初の音合わせが終わると「曲に違いは無かったか?繰り返しの回数は同じか?」と質問を受けた。

「はい、私が知ってるのと同じです」

楽団員達が、皆、ボソボソと何か話し合って、こちらに「曲に違いは無かったか?繰り返しの回数は同じか?」の質問が、再度ふられた。

「え?何か変でしょうか???回数違うなら、合わせますが・・・」不安が募って来る。

「ちょっと待ってて」と言い残し、楽団は、同じパートを繰り返し繰り返し叩いて練習し始めた。

さっき「ウィラナタを叩ける楽団は少ない」と威張ってたわりには、覚えていない? いや、ちゃんと覚えてるが、すごく細かい所を直し始めたようだ。細部に納得がいかないようで、怒りながら練習している。

怒鳴っているが、私が間違ってたわけでないのが判り、その面では安心。

なんと、この夜はウィラナタを4回も踊った。細かい部分の直しで、短いパートを何度も繰り返すので、実際は、もっと動いた。習う先生によって違うのかもしれないが、ウィラナタはブバンチアンの中で一番体力を使う。これを習うと、タルナ・ジャヤって楽なんだな、と感じられるくらい筋肉が痛くてツライ。

激しい踊りのクセに、踊りの終盤まで各所に片足で立つポーズが入るのが、これまた平衡感覚が無いと耐えられない・・・

ウィラナタwiranata
フラミンゴみたいな片足姿が特徴的なウィラナタ
レンズのせいか、実物より太く映ってたんで足部分はカット!

だから、ちび太はヘロヘロを通り越してヨレヨレ。Tシャツも、汗臭いのを通り越して、なんか、雑巾みたいな臭いが自分から漂ってきた。

そんな雑巾臭のとこに近寄られたくないのに楽団員さん達が「ちょっと・・・」と、やってきた。

「実は、この楽団では、以前もムバルンで日本人を使った事があるんです。」

「はあ・・・」

「その時、この楽団は勝つ自信が少し無くて、外国人が踊れば『この楽団は上手なのに、外国人が踊ってるせいで、レベルが落ちてみえる。本当は、もっとスゴいんだろう』と思わせる。という心理作戦を使ったわけです」

「はぁ・・・」(え~?そんな気の滅入る事、言わないで~)

「いや~、すこしズルい作戦ですが、成功しました。」

「はぁ・・・」

「そこで、ですね。明日も明後日も練習に来られますか?」

「はぁ・・・練習は多い方がいいので、いくらでも来られるだけ来ますが・・・」

「では、力を入れて、頑張りましょう!」

よく判らなかった。何を言われたの? 何が話のポイントなの?

なんとインドネシア語能力の無いことよ、、、と思うくらい、楽団員さんの話している意味が掴めなかった。「そこで、ですね(Oleh karena itu)」なんて基本中の基本の言い回しさえ、滅多に使うこともないんで、翻訳コンニャクがないと無理だわ。

日本人もはっきりモノを言わないが、バリ人の遠回しも理解に苦しむ。

「今度」とか「考えておきます」が婉曲的に「ノー」なのは日本と同じだが、

「わかりません」や「知りません」が「イエス」の事もある

私の脳では理解できない。

楽団側が遠回しに「ムバルンで日本人はやっぱり無理かな~、ごめんなさいね~」と言ったのに、明日もノコノコ練習に行ったりしたら「勘違いな人」の仲間入りだ・・・でも、明日また来いと言ってたのは事実だ・・・

帰宅後、同宿のバリ人にこの話をふってみた。

「バカだね~!それは、良い意味なんだよ。今から踊る人に対して、わざわざ『日本人は下手だから使う』なんて話はしないだろ?!明日も明後日も練習は出来るか?って聞かれたんだろ?頑張ろうって言われたんだし、心配しないでイイ!」

でも、ビビリィな私は、そのバリ人に翌日の練習について来てもらう事にした。本当の所を知るための、スパイ大作戦だ。スパイは、指令通り楽団員やら、見学にきた御近所さんやらと「バサ・バシ(世間話とか無駄話)」を交わして情報を集めてくれた。

ラワールlawar
対決といえどスポーツマン(アーティスト?)・シップは重要。
ムバルン終了後は和気あいあいと記念撮影

結果、「楽団側は、最初は『踊り子がバリ人だったら上手な楽団だろうに~』を予定して日本人を探してたが、練習を見たら、踊りが日本人ぽく見えなかったので、急遽『タム作戦』を辞めて、今回は真剣勝負に出よう!と言う話にまとまった。」 という事 「だから音と踊りがバッチリ合うよう、今後、頑張って練習に出てください。」と期待されてるのだ。と、まとめてくれた。

「ダイエットも頑張ってください」の意見があったと報告内容にはあったが、スパイの個人的意見だと思うので、それは、却下。

も~、飛び上がるくらい、嬉しかった。

「踊りが日本人には見えず、きちんとバリ舞踊になってた(しつこく、もう一回書いてみる)」ってのは、化粧して衣装着て「見た目が」バリ人みたいと言われるのとは違う。「踊りが」バリ人みたいと言われたのだ。御世辞だとしても、嬉しいから、録音して繰り返し繰り返し聞きたい~!って感じ。

ちょっとでも褒められると、すぐに有頂天になる「オダテに弱い私」だが、こういう褒められ方をすると、俄然、頑張って張り切りだす。それから一ヶ月以上に渡り、熱を出した日も、豪雨と雷の中も、毎晩この練習に通った。

そして、踊り子と楽団の息が揃うというのは、やはり2回や3回の練習では無理だということを学んた。ゴン(楽団)とプナリ(踊り手)は夫婦や恋人の様なものと言う。じっくり時間をかけると、繋がりが深くなるし、ツーカーの仲にもなれる。

この時も、練習を続けるに従って、今まで気が付かなかった音が聞こえてくるようになった。

録音したものを確認すると、それは最初の日の練習から入っている音なのだが、今まで全く気が付かなかったのだ。それはクンダンの合図であったり、レヨンの音であったり、とても小さい音なのだが、この楽団に独特の音が入っているのだ。

その音にピッタリ合うように動けた時の「きまった!」という達成感に似た感覚は、今でも忘れられない。

そして、肝心のムバルン本番だが、楽団も踊り子も、自分達の勝利を体感。

打ち上げで「●●楽団!ばんざーい!」が叫ばれたのだ。

ちび太くんも、よく頑張ったぞ!バグース!!!