「ジョドー(jodoh)」という言葉。グーグル先生に尋ねると「メイト、仲間」と出て来ました。他のオンライン辞書でも「配偶者」「恋人」
バリ舞踊では、少し違う使い方のような気がします。踊り子と舞踊の関係とか、演奏者と楽器の関係などに、よく使われる単語です。
これから書くジョドーは、日本人が感じる「御縁」というニュアンスで読んでもらえば、私の言いたい意味がわかって頂けるかと思います。
我々、外国人は、バリの宗教芸能であるバリ舞踊を勉強させてもらっている身です。
本格的にどっぷり浸かって宗教まで学んで理解するも良し、カルチャースクールの延長で習うも良し、楽しく1日体験も良し、それは各自の置かれた環境とか生活パターンで違ってくるので、決まりはないと思います。
ただ、バリ舞踊を習っている身として、これは褒められた事では無いな・・・と思うのが「ミンタ」
うちの子供を舞台に出して~と、バリ人のお母さんが楽団に「ミンタ」した。とか、次の奉納で、うちの楽団を使ってと「ミンタ」された。とかいう場合は、「ミンタ=お願いする、頼む」です。
しかし、これが外国人から発せられると「=ねだる、せびる」と解釈されます。
私が踊りを習い始めた頃、あちこちの楽団で「ミンタ」してる日本人がいる。というゴシップが流れてきた事があって、その、まるで悪人の噂でもするかの様な反応に戸惑いました。
事情を知らない別の日本人が、彼女がミンタした舞台に一緒に誘われて踊り、楽団員から「あの人も強引に割り込んでくるタイプの人」として扱われてたのが可哀想でした。そんな体験があって、我々は絶対に「ミンタ」する日本人にはならないでおこう!と、当時の舞踊友達や先輩と誓ったものです。
もちろん「今度お祭りあるけど、何か踊れる?」と向こうから先に聞かれれば、今習ってる踊り、得意な踊り、踊りたい踊りなどを相手に伝えます。踊りたい踊りを言うのは、それもミンタのうちに入るのかもしれませんが、普通に受け止められてるみたいです。「踊らせて」と、色々な場所で言って回っていたのが件の彼女が批判されていた理由だと思います。
あれから随分たった今でも、時々、外国人が「ミンタ」しているという話を聞かされます。
バリ人(特に習いたてで、はりきっている子供たち)が踊る場を奪うのは、普通に考えると、なんか妙ではないでしょうか?・・・それとも、私の考え方が、少し偏屈なのかな? そもそもバリ舞踊はバリ・ヒンドゥ教徒が、神様のために踊るもの。信者でない我々よりも、バリ人が優先されて当然と思うのですが。
「私は数年しかバリに滞在しないんだし!」とチャンスを逃がさまいとするのは判りますが、バリ舞踊って、やはり、上に書いた「ジョドー=御縁」が最も大切だとも思うのです。
外国人の生徒を多く抱えた●先生。生徒を頻繁に踊りの場に誘うタイプの人なのですが、その●先生が「驚いた」とあちこちで披露している話があります。
ある日本人が「今度、私を踊らせて」と、初対面の場で言ってきたのだそうです。
貴女は私の生徒でもないのに、どうして???と、●先生はビックリ。 自分からプッシュしてくる人に会うのは、初めてだったようで、かなり戸惑ったようです。
人数が足りない時は、お願いするかもしれないけど、踊る機会があったら、たとえ下手でも自分の生徒を優先するのに・・・と苦い顔の●先生。
バリ人の性格として、面と向かって言われ、誘わないのは無理。●先生は次の機会に、その人に声を掛けたそうですが、なんと本番で、彼女にちょっとしたアクシデントが起きました。
彼女の踊りは途中まででストップ。最後まで披露されませんでした。その場にいたのは、●先生から「驚いた」話を聞かされている(バリ人のゴシップは怖いです。作り話も含め・・・)生徒ばかりで、事情を知っていたので、「ああ、やっぱりバリ舞踊の神様は奉納されるのを、希望しなかったんだ・・・」と納得していました。
私も、1回だけ、神様に踊りを喜んでもらえなかった経験があります。
自分から「踊らせて」とミンタした事は誓って1度もないんですが、自分の中で少し引っかかっている昔話。
「今度▲舞踊を踊ってください」と言われた時のことです。
本番に向けて何回か練習を終えた時に「ごめん、バリ人の子が、今度▲舞踊で 試験を受けるから、その子に回してアナタは違う踊りでもいい?」という電話をもらいました。
こちらは踊る機会をもらっている身、変更があれば、そこで「はい!」と答えるのが当たり前なんですが、その時、頭に浮かんだのは、こんなに何回も練習して、いい具合に完成してるのに、なんでギリギリになって、他の人に踊らせるの??? 思いっきり、私のエゴです。
「あ~、そうですか~、う~ん、でも、え~、そうです~ね~。あ~、いいですよ~。」と、あいまいな返事を口走ってしまった・・・
相手は多分「は~いっ!」の返事を期待していたと思うので、電話の向こうで「あ、えと、あ、ずっと練習してきたのにね、ごめん・・・」と、お互いに後味の悪い会話になってしまいました。
私は、試験を受けるバリ人の度胸試しの場に「どうぞ」と言うべきだったんです、どう考えても。
違う踊りを振られたら、その踊りこそが今回の自分と縁のある踊りなのに・・・なんて馬鹿な私。
数日後、依頼者側から「珍しい舞台にしたいから、全部日本人で踊り子を揃えて」のリクエストがあったとかで「やっぱり▲舞踊をお願い」と再連絡があったけれど、やはり気持ちのいいものではない。
で、私に何が起こったか?!
本番2日前、楽団との音合わせに行った時、熱が出て体がダルく、ずっと柱や壁にもたれてないと無理なほどの体調。
舞台に穴を空けないように、熱さましの注射でも。と思って病院に行ったら、
「チフス」です・・・
入院の必要は無いですが、食事に気をつけて、静養してください。
これは天罰よ!踊っちゃダメよ!
ところが、本番前日だし、日本人限定だと代わりの踊り手がみつからない。
熱でフラフラしながら、踊りました。みんなに心配をかけまくり「動きではバレてない感じだったけど、後半、ずっと口で呼吸してたよ・・・倒れるんじゃないかと怖かった」と言われてしまいました。
とても許されるような態度の踊り方では無いですよね。
このことがあって以降、「ジョドー」が何よりも大切!と更に深く思うようになりました。
ましてや「ミンタ」は絶対ダメ!
このチフス体験があってから、踊ることに関しては絶対に「向こうから」やってくるのを待ちました。
その結果、以前よりも多く、頻繁に踊る機会が来るようになりました。
以前は、数カ月に1回くらいチラホラと踊っていたのですが「バリ舞踊の神様が、縁を結んでくれるのを待つだけ」に考えを切り替えて、せっせと練習に励みだしたら、多い時では週に5日も踊りの依頼が来るような展開になりました。
特に、お寺で踊る機会が増えて、バリ島中のいろいろなお寺を廻らせてもらいました。とてもありがたい事です。
これからバリ舞踊を習う人も、今、習っている人も